大好きな「ベルリン・天使の詩」のヴィム・ヴェンダース監督の代表作の一つに挙げられるので、前から興味があった。
飲まず食わずで荒野でぶっ倒れた一言も発しない男。
連絡を受けたのは、何か秘密を抱えていそうな男女。
最初から謎が多い設定になっている。
無精髭に覆われ日に焼けた顔、ヨレヨレの埃まみれのスーツ、黒ずんだシャツ、不似合いな真っ赤なキャップ、足元はズタボロになった編み込みサンダル?まるで長年の浮浪者だ。
いや、記憶喪失か、痴呆なのか、なにか精神的な障害を抱えているのか?
いったいこの家族に何が起こり、この男がどんな年月を送ってきたのか?
何から追われているのか、それとも何を追い求めているのか、、、
広大だが、何も無いテキサスの風景を舞台に、なんとも不思議な旅が始まる。
車のバックミラーをメインスクリーンとしたり、美しく薄暗い夕景が何度も背景になったり、ある人間特定のカメラ目線になったり、青空と並んだ靴の映像、心の揺れをテーブル下の人々の足の動きで表現したり、ほぼ同じようなシーンの繰り返したが主体が変わってたり、窓の外からのカットに場面展開した窓の中のカットを繋げるなどちょこちょこヴィム・ヴェンダースらしい独特なカットがある。
過去と現在、つながってるはずなのに夢の中のようなフィルターのかかった別世界など、ベルリン天使の詩を彷彿とさせる。
自分勝手でだらしなくて頼りにならないダメ男。
息子や弟夫婦の身になってみれば、とんでも迷惑で困った身内だ。なのに憎みきれない。
人間はいつも失って初めて過去の歩みを振り返り、どれだけの物を手放したのか気づき深く後悔する。
しかし、その時はすでに取り返しがつかない。。。
この妻役のナスターシャ・キンスキーがバースツールから振り返るシーンが、ものすごく美しい!
息子役のハンターもすごく透明感あふれる子役なのに、その後あまり活躍しなかったのか。
ヴィム・ヴェンダースの作品は、セリフがないところでこそ最もぐっと胸に迫るものがある!
いやあ、後半泣けました。
特にドラマティックでスピード感のある展開ではないんだけれど、まったり淡々としていながら素晴らしい映画でした。