有吉佐和子原作の、急速に進む認知症の親を抱えた共働き夫婦の家庭の話。
今よりも介護の体制が整っていなかった時代、体力も充分にある徘徊の性癖のある者は、老人ホームでも引き受けてもらえず、一時も目を離せぬ家庭での介護は相当なストレスだったであろう。
精神的に疲れ果てて崩壊していく家族たち、、、
を、描いているようで、森繁久彌演じる呆け老人がどこかコミカルで憎みきれず、不謹慎ながら思わずクスリと笑ってしまう場面が多くてそれほど重苦しくなってはいない。
昭子役の高峰秀子さんもすっきり和風顔で美しい。
だが、自分の実の息子や娘の顔も忘れ去って警戒する中、結婚以来嫁いびりで苦しめ続けたはずの、嫁の昭子だけは覚えていて、唯一頼りにしていたわけは、、、?
それは話の流れの中で汲み取ることが出来る。
頑固で偏屈な鎧を脱ぎ捨てて童心に還ったからこそ、本当に他人の身を気遣い信頼できる人間を本能的に見分ける力とでもいおうか。
もちろん他の家族が、酷い対応であったという訳では無いし、昭子だっていつも優しく接していられたわけでもない。口が悪くとも、あれだけ面倒見の良い孫も珍しい気がする。
が、やはり追い込まれて心の余裕がなくなった時に出る人間性のようなものがあるのだろうか。
嵐のようにかき乱して、さんざん手間がかかったにもかかわらず、亡くなった後の家族の放心状態が心に残る。
現代でも解決しきれない、いや高齢化社会でさらに加速化していきそうな問題である。
昭和48年というかなり古い作品でモノクロであるが、昭和のムード満点の家具や家電も懐かしく、町並みやファッションなどもレトロな面白さがあった。
まだとっても元気でちゃくちゃきの浦辺粂子さんや、若すぎてピンとこなかった篠ひろ子さん、 乙羽信子さんも出演している。息子役の田村高廣さんは、田村正和さんの兄であるという。
確かに現在その言葉を出したら多分ものすごい批判を浴びるんだろうなという言葉はいくつかあれど、逆に介護する側の気持ちがストレートに伝わってきてよかったなと思う。
他人事では済まされない。。。。