実は先日到着後にもざざーっと境内一周はしていたのだが、ここまで来てざざーっとで終わることはない(笑)
翌朝早い朝食後に一人でじっくり散策することにした。
だって、一応ところどころにある「順路」の標識に従って進んだけど、どう見ても行っていない方面まで敷地は広がっていたんだもの。
朝土砂降りだったので、玄関で備え付けの傘をお借りして外へ出たが、ちょうどやんでいた。
一般参拝客が訪れる時間でもないのでだーれもいない。歩いてるのは私一人。
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低い雨雲の暗い空と白く霞む山並みが荒涼とした風景を一層際立たせる。
来る前はイメージで、ごつごつした岩場が続くなだらかな「山」だと思ってたのだけど、よく○○地獄と名のつく活火山地帯にあるような風景。
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地蔵殿のすぐ脇の方に、奥の院へ続く長い石段があったので、まず登ってみた。(昨日行ってない)
建物の全景がよくわかります。やっぱ大きいな〜〜。
入り口の向こう側に見えるのは「宇曽利湖」という恐山の目の前に広がるカルデラ湖です。
つまり火山帯地域なわけで、こういうところは温泉地も多いですよね。
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奥の院には不動明王が屹立してました。すぐ背後には山肌が迫り、緑が濃い静かなところです。
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また下まで下ってきて、メインコースをまわりはじめる。
人知れずカラカラとまわり続ける風車が物寂しい。
ちょっとドキッとしたのは、この風車たちも無意味にさしてあるわけではない。すべての風車の柄の部分には個人名がびっしり書き込まれていました。ひとつひとつが供養なんですねえ。
風車だと小さいお子様を亡くしたご両親の想いがこめられてるのかもしれない。せつなくなりました。
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首のない、焼け出されたようなお地蔵さんはどこから来たのだろう。
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風が強くなると狂ったように激しく回り始める風車。通りかかった人に何かを訴えようとしてるのか。
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霊感スポットやらパワースポットと思われがちなところですが、名前のように恐れは感じないし、強力なパワーもあまり感じられなかった(私がにぶいだけかもしれないけど)
若い頃はある年数、そういう気配を敏感に感じ取りおびえた時期もあったため、本当は何かが見えてしまったり、映ってしまったり、しょって帰ってくることになったらどうしようという不安もあったのだけど、ここでは怨念のようなものは感じられずひたすら静か。むしろおだやかと言ってもいいかもしれない。
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誰が誰のために積んだか石積みもたくさんありました。
賽の河原のイメージはあるものの、ぞっとするような不気味さはなく、ただ寂しさ、悲しさのようなものが感じられる。
それは故人の感情ではなく残された遺族たちの想いがただよっているのかもしれない。
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ところどころにも静かにこの地を見守るお地蔵さんの姿が。暗い朝もやの中では確かに俗世離れした場所かもしれない。
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そうそう、なんで昨日あんな早くまわり終わってしまったのかというと、「順路」と書かれた看板がないところにたくさんの脇道がでていて気付かないと通り過ぎてしまうのです。
実際にはたくさんの「順路」がさまざまな方向に伸びているので、道があったらそれぞれどこかにつながってると思った方が良い。
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一番奥まった方に「慈覚大師座禅石」などもあります。
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この恐山の開基が慈覚大師 円仁。最澄の弟子で、最後の遣唐僧として唐に渡った高僧です。比叡山延暦寺三代天台座主でもあります。
苦難を乗り越えた唐からの帰国後に、東北の奥地まで回り歩いて教えを広めてまわったのですね。
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写真ではわかりづらいけれど、石積みの中にはもうもうと湯気を吹き上げているところもあります。
これは供養ではなく多分危険地帯の蓋のようなものなのでしょう。下の方からはごぼごぼ湧いてるのも見えます。
もっと寒い季節になればはっきりと白煙がわかるのだろうな。
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とりあえず目に入る小道という小道を歩き回ってる間に、一カ所だけなにやらぞくっとした地帯がありました。
八角堂の裏手あたりに鬱蒼とした樹木が生い茂ってる箇所がありまして、手ぬぐいやぞうりが多数ぶら下がっている。
真ん中当たりに人が立っているように上っ張りともんぺのようなものまで下がってたせいかもしれない。。(中の人はいない)
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草履や手ぬぐいは、死者があの世への旅立ちの時の準備に必要という話と、あの世から戻って来る時に履物や汗を拭うものがないと困るという話と、あの世は暗闇なので、白い手ぬぐいを目印に進んでいくという話を読んだ覚えがあります。
いずれもすべてに故人のお名前やメッセージが書かれています。
入り口脇の売店でも確か販売していたと思うけど、故人の好きな柄を選んだり、自分で布草履などを編んでもっていくのも想いがこもっていいかもしれない。
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途中途中に〜〜地獄と記された箇所もいくつかあるけれど、特にそこだけ壮絶な感じもしない。
「血の池地獄」というからには赤いのかと思ったが、普通に藻の生えた緑の水が淀んでました。
以前はみんなが投げ込む硬貨の錆のせいか、実際に赤かったそうな。
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八角円堂でおまいりして、道なりに行くとそこは「極楽浜」
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宇曽利湖畔なのだけど、硫黄分が混ざって強酸に傾いた水は青色が強く、白い砂浜に打ち寄せる様はまるで海。
今までの殺風景な風景とは打って変わってすがすがしく穏やかな気持ちになるところです。
見た目は美しいけれど、pH3.5付近で本来生物が生きられるような環境じゃないのに、ウグイが棲息してるらしい。
きっと特殊な変化を遂げてこの過酷な水質で生きられるよう進化したに違いない。
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モノクロームの岩場を抜けて出会うこの風景は、まさに極楽といった感じだが、振り返ればやはり別世界。非常にギャップがある光景だ。
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この極楽浜の岸辺には、東日本大震災で亡くなった方々を鎮魂する真新しい地蔵菩薩がたっていました。
両脇には「鎮魂の鐘」「希望の鐘」が備えられており、鐘を鳴らしてご冥福をお祈りしてきました。
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裏側には大人、子供、男女などさまざまに入り交じった大きさの手形が彫り込まれている。
それぞれに大切な方のことを偲んで触れていただけたら。。という想いが込められているらしい。
私が合うのはきっと男性の手じゃないかと思う(ーー;)手袋だいたいメンズものだし。。
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胎内くぐりの細めの通路を通って、生まれ変わってこの世に帰還するのだ!
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。。。と思ったら、抜けた先には多くの地獄が待ち構えていた。何故そんな騙されたような造りになっているのだ(;;)
地獄のちょっと先には五智如来のおわす展望台があって、やや小高い丘になってました。
とりあえずぐるりと回り終えたところで、また急に雨が激しくなってきた。めぐってる間だけ降り止んでくれたのだから一応晴れ女健在といったとこなのか、恐山が私を迎え入れてくれたということなのか。。
帰りがけに、行きは通り過ぎてしまった「三途の川」に立ち寄る。
本当は来る時にあの世の象徴でもある恐山に行くために渡るものなのだろうが、境内からはちょっと離れたところにあるのですよ。
宇曽利湖の青さがここはすごい際立っていて、ほんと普通の川じゃないなと。雨で霞んだ風景が一層この世ならぬ雰囲気を醸し出している。
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特に立ち入り禁止の足止めもないので渡っても良いのだな?と、奪衣婆たちの像がたつ町側から登っていったのだが、降り立つ方が大雨で広い範囲で深い水たまりになってしまっていたので、あの世へ渡ることは出来なかった。
(きっと、まだお前はまだあの世へ渡る時期が来ていないということなのだな。。)と解釈して現世方面へ戻っていったのだが。。
「悪人には、この橋が針の山に見えて 渡れないと言われる」
別に針の山に見えたわけじゃないよぉ゚゚(´O`)°゚ ウワーン!! 渡れなかったら悪人みたいやん。知ってたらどしゃぶりの中でも思いっきり飛び越えたのに。。。と妙な後悔を残しつつ帰途についたのであった。
おしまい