山崎豊子さんの、長編大作を原作とした「沈まぬ太陽」見てきました。
この著作は我が家にもありますが、単行本にしても全5冊というかなり長い作品です。
- 沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)/山崎 豊子
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大変な話題作であるのに、今まで映画化されなかったのは、こうした長い作品を映画用に切り詰めると内容が伝えきれないという点もあったでしょう。
しかし、この本を読んだ人ならわかると思いますが、内容が1985年8月12日に実際に起こった某航空会社の悲劇的な大事故をベースにしています。御巣鷹に墜落したのも事実と一致してますし、「フィクション」と言っても、圧力がかなりあったのではないかと。
この事故が起こったときのことは私も覚えています。まだ子供ではありましたが、未曾有の大惨事としてニュースや新聞で日々そのことばかり。
小説ですから、すべてが事実というわけではないのですが、関係者側から名誉毀損だとかなりの批判も出ました。
でも、この事故で肉親を失った被害者の立場からすると、こだわるのはそんなところではないだろうと思ったはず。
内容的にはかなり重いです。しかも上演時間が3時間22分とかなり長い。
そのため、間に休憩時間をはさむのだけど、何分くらいだろ?と思ったら10分でした。ちょっとしたトイレ休憩ってとこですかね。
なあに、『風と共に去りぬ』の方がもっと長かったさ~~~♪と、思ったら、まあ、それほど変わらない、か(笑)
とはいえ、これだけの時間でも、まだ十分表現できたとは言い切れないかもしれない。深い話です。
とにかく理不尽につぐ理不尽で、救いが見えなくて苦しい。
正義とは何か? 会社のため、国のためとは何か? 信頼とは? 友情とは? 人間の尊厳とは?
「男の矜持が許さない」と言えば、そのために家族まで犠牲にして引き裂くようなことをするのは、自分勝手に見えるかもしれない。
でも、自分のプライドの面だけではないと思うのですよね。
それまで一緒に戦って来た仲間たち、さらに言えばそのために同じように苦境に追い込まれた仲間たちをも裏切るようなことになるのではないかと。
そして、結局は長い物には巻かれるもんだという、今までのすべての行為が無駄で無意味なあがきだったと認めることにもなる。
個人としての問題だけだったならば、それほどまで苦悩しなくても良かったのではないかと思います。
しかし、大きな組織というのは本当に魔物。個人が立ち向かってなんとかなるものでもなく、大きな問題を投げかけてきます。大きな利権がからむほどに、その裏では表面には出ないところに多くの人々が潜んでいる。
夢がないと言ってしまえばそれまでだけど、末端で必死に動き回って働く人々がアリのごとく虫けらのごとく。。。
不祥事が起きた場合に、実際に被害者と向き合って痛みを受け止めるのは、こういった実際には会社内の利権の動きはまるで知らない上層部ではない末端で動く人々だったりする。
実は昔勤務していた会社でそういう経験があるので、より一層感情移入ができてしまったのかもしれない。
むろん、そこに属していた以上、責任がまったくないとは言いません。しかし、そういった個人個人と向き合って、不満やののしりを受け止めるということは、実際に経験してみないとわからないことだと思うから、一層実際に不祥事に関わってた上層部も体感して欲しいものだと。
相手が人間である以上、形ばかりのお詫びなどは底が割れるし、かえってしらじらしく不快に感じるのは当然のことだ。誠意とは、向き合ってこそ伝わる物だと思う。
まあ、そんなこんなでそれぞれの立場の心理描写はとてもよく描けていたと思います。
個人的に渡辺謙さんが大好きだというのは抜いても(笑)
しっかし、香川照之さんもほんといい役者さんですね。地味な役が多いけど、そういう素朴な普通っぽいけど心の底は熱い男の役をやらせたらピカイチ!「劔岳」の時もいい味だしてました。
石坂浩二さんも昔はどちらかというと線が細い感じだったのに、いつの間にか貫禄ついちゃって(^^;)
他にも小林稔侍さん、大杉漣さん、西村雅彦さんなど癖の強い、良い脇役が固めています。
女性陣も鈴木京香さん、松雪泰子さんなどそれぞれの持ち味を生かした配役になってますし、よくみると非常に豪華なキャストです。
もう一回通しで読み直したくなりました。