高丘親王航海記

時代物フィクション

高丘親王航海記 (文春文庫)

澁澤龍彦氏の著作の中で、私が一番大好きなのがこの本です。年に数回必ず読んでいるような(^^;)

元々博物学的なエッセイというか論文というかが多くて創作小説自体が数えるほどしかないのですが、もっと創作小説も書いて欲しかったなと。

この作品は彼の最後の著作になります。だけに、なんというか彼の想像のエキスがギュッと詰まってる感じがする。

この「高丘親王航海記」は、平安初期に実在した 高岳親王 がモデルになっています。
平城天皇の息子で、皇太子という地位をもっていて、時代の流れによっては天皇になっていたかもしれないお方。
しかし、政変により出家の道を選び、弘法大師の十大弟子の一人(真如)とまでなった人物です。

とはいえ澁澤さん、そのまま歴史小説としては書きませぬ!

高岳親王は晩年、仏法のために中国の長安に渡り、それでも飽き足らずに天竺を目指して出航し、以降歴史から姿を消すのですが、そこになにかしらのロマンを感じたのでしょうね。

この小説では、広州を出航して以降の足取りを、想像の翼を多いにはばたかせて書き上げられています。

まさに澁澤龍彦ワールド。

人魚とも言われるジュゴンに、鳥人の迦陵頻伽、夢を食べるバク、犬頭人などの不思議な生物や巨大な花ラフレシアの秘密、夢の中のような旅の中で見る夢。

ひとつ生まれては一つ消え行く不思議なパラレルワールドのような世界。聞いたことも無いような風習や人の運命を映す湖など。

こう書くとファンタジーな世界のようだが、軽やかではない。読むほどに味の出てくる大人向けの本だと思います。

澁澤流玉手箱というか万華鏡というべきか。

そういえば、流れでいくと、天竺へ求法のために旅立つ僧の話ということになるのだけれど、まったくそんな感じがしませんな(笑)アジアの南国に漂う夢といった感じか。

また、親王によりそうように藤原薬子の幻影がつきまとう。
藤原薬子といえば、高岳親王が皇太子を剥奪される原因と成った「薬子の変」の中心人物とされる女性なわけですが、これがまたなんとも艶やかに、妖しく描かれている。
もはや人間とは思えないほどに。。。

幻想的で美しい世界でありながら、淫微な雰囲気と無常観と暗さもあわせもっているような、この世ではない場所とつながっている物語。おすすめです。

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