大地 (新居格訳)

海外小説

大地 (1) (新潮文庫)

母からすすめられて譲り受けた本です。

原作は1930年代にアメリカ人の女流作家であるPearl Sydenstricker Buckが書いたものですが、日本でも各出版社からいろいろな翻訳者によって出版されてます。

実は私が所持しているのも新居格さんの翻訳で新潮文庫からのものなのですが、現在出回っているものは上記の岩波文庫の小野寺 健さん翻訳のもののようです。

翻訳者によって多少ニュアンスも変わってくる面もあるかもしれませんが、おそらくこれだけ読み継がれ、何度も新しく翻訳され直しているからには原作の不動の芯があるのでしょう。

内容的には清朝末期から中華民国成立ぐらいの長い期間、親子3代にわたる話になっています。

アメリカ人が中国の話?などというと客観的な外から見た世界という感じがしてしまいますが、この話は本質を非常に捉えている気がする。
そりゃ、私も異国人ですからわからないだろうと言えばそれまでなんですが。。。

しかし、パール・S・バックは生後間もなくから親の事情で中国に渡って幼少期から大学入学の年まで生活したので、生身でその風土を身に感じて育ち、しかもその後また中国に帰っている。アメリカよりも中国側に近い存在だと思う。

元々は「大地」「息子たち」「分裂した家」という3部作であったようだが、日本ではすべてを合わせて「大地」の1巻2巻というふうに捉えられているようだ。文庫本ではだいたい4巻で1セット。

1巻では王龍という貧しい小作人が、耕す土地を没落した地主から少しずつ買い取り、ついには大地主までのしあがっていく話。

こう書いてしまうと非常に単純なのだが、この中には土地というものへの激しい執着や、エゴ、人間のたくましさや弱さ、愛情や、献身や変貌や思い上がりなどぎっしりと詰まっている。
決して応援してスカっとするたぐいのサクセスストーリーでもない。

そこに行き着くまでは、もちろん並大抵の苦労では収まらない尊敬すべき努力もあるのだけれど、なんというか人間の心に潜む醜さも鋭く浮き彫りにされている。淡々としているけれど、この1冊は重い。

2巻では、授かった3人の息子たちが、汗水流して土地にかじりついた父親とは対照的に「富豪の子」として違った生き方をしていく様が描かれる。1巻を読んだあとだけに何とも痛い。
それぞれが大事に思うもの、生き甲斐や野望なども描き出されてゆく。

また、王龍が後に囲い込んだ愛妾たちの生き様の違いも見事。同じような境遇に迎え入れられても、心根や考え方は個々違うものなのだなあと。

王龍が授かったのはたくましい息子だけではない。知能障害の娘もいて深い愛情を注いでいたのだが、果たして兄弟である息子たちの態度は。。。

後半から息子の中で一人違う道をとって軍人となった3男の話が中心となり、3巻へと続く。

3巻はこの3男のその後を中心にさらにその息子、王龍から見れば孫の代に移る。ここでまた父と子の生き様の違いがでてくる。なんとも人生思うようにはすすまず、親の思う通りに子は育たずと言ったところか。

情勢は刻々とめまぐるしく移りゆき、激動の時代の中で王一族をとりまく環境も次第に変わって行く。

こうして最終章に集約されていくのだが、、、、

とにかく人間というものを深くえぐりだした名作で、この作品から受け取れるものはなんだろう?

親子や血縁とは?題名ともなった「大地」が示すのは?

これはそう簡単に語れそうにもない。読んだ人がそれぞれ何かを感じることでしょう。

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