どこで見たのかは定かではないが、子供の頃からなぜか見知っていた、「月の目玉にささった砲弾の絵」。昔はこのささっているのは望遠鏡だと思っていたのだが。。
何の背景も知らずこの映像だけみた人は、なんとも質の悪くて汚い古臭いフィルムに、細切れ飛び飛びの画面、粗末な書割の背景と陳腐な設定、ストーリー性の低いドタバタ喜劇に三文芝居を見てるような気になるかもしれない。
それは現代の美しく描写力豊かで不可能を可能にするような技術と科学の進歩と照らし合わせて同じ土俵に上げたらそうかもしれないが、これが作られた時代を知れば、どのくらい画期的で人々を熱狂させたか感じ取ることが出来ると思う。
そのために、ドキュメンタリー的に仕上げられた「メリエスの素晴らしき映画魔術」とのカップリングはとても有意義だったと思われ、本編の前に見ることを強くおすすめする。
このメリエスという人は、映画というものの可能性を一気に広げたものすごい革命児だ!
奇術師という立場があったからこそ、ただ現実を切り取るだけではなく、ありえない空想の世界を形にし、特撮の元祖というべきさまざまなトリックを仕掛けてきた。映像という新しいマジックの誕生だ。
柔軟で奇抜な妄想力と、だからこそ描けた誰も見たことのない世界。
大人も子供もきっとワクワクしながら目を輝かせて画面に釘付けになっただろう。
そしてそんな観客たちの顔を見たいがために、次々と新しい映像の魔術を生み出していったことだろう。
そう、彼は生粋のエンターテイナーでもあったのだ。
時代の波が押し寄せてきても信念を曲げず、それゆえについに呑み込まれてしまったが、他の作品も是非見てみたいという気になった。
もっとも、復元含めて映写できるフィルム自体が希少となってしまったようだが、、、大部分は彼自身の手によって、、、
そんなメリエスの映画人生の浮沈と、この着色版が発見されてから復元されるまでのとんでもなく多難な道のりの記録が収められている。
溶けて密着し、変質変色したセルロイドの塊を戻すことなど普通の神経ならお手上げだ。
また、着色版=カラー撮影ではない。
モノクロフィルムしか存在しなかった時代、数千~数万に及ぶ小さなネガフィルムの一コマ一コマに、人が手書きで絵を書くように塗り絵していったというのだから驚きだ!
それでほんの3分~10分ちょいの映写の枚数だという。
そういうことも踏まえてみると、多少はみ出したり、色が滲んだり微妙に濃淡が異なるのにも人の手のぬくもりが感じられてなにやら愛おしくなる。
また、復元時の状況を考えれば、ここまで繋がった見られる映像になっただけでも驚異的で、荒さも時代の名残として楽しめる。
音楽については、明らかに時代を考えればこんなであるはずはなく、なんで現代的なすげ替えしちゃったんだろう?
おまけでついてきたモノクロ版の方が、自然で時代にあってるのになぁ、、、
と、思ったんだけど、特典の作曲した2人のインタビュー見てちょっと納得した。
彼らなりに作品を愛すればこそ、古典派の反感も承知の上で、あえて現代の世代に魅力を訴える音作りにチャレンジしたんだなと。
もろ手をあげて、こっちの方が大好き!とまでは言わないまでも、特に前半の協議してるとこから出発へ向けてのあたりは雰囲気を盛り上げてていいかも。
てな感じで、カラー、モノクロ、カラー、モノクロ、、と、何か発見がある度に繰り返し見てしまった(笑)
なんせ本編の映画はわずか15分ほどだから!
とはいえ、当時の常識では3分くらいが一般的だから風と共に去りぬに負けない超大作だと言えよう。
このDVDには他に2編メリエスの作品が収められている。
セットは使い回しかな?と思えるやはり天文学者が主体となった作品だが、なんとも味があり、ドリフかよ!というところもあり、ほのぼのと楽しい気分にさせられた。
後世に巨匠と呼ばれる人々にも影響は与えたと思うが、同時にエドウッドのようにD級以下と謗られるけど、映画を作る楽しさそのものも継承していったんじゃないかなと思う。
映画を愛する人々へ、映画の原点を再認識させてくれる、ちょい高いが買ってよかったと思うDVDのひとつです。
通常の映画とは全く違う鮮やかな極彩色の映像を是非楽しんでみてください。
そういえば、日本では2012年に公開された『ヒューゴの不思議な発明』って、もろメリエスへのオマージュ?ちょっと見てみたくなった。