弓削道鏡〈下〉

歴史(日本)

弓削道鏡〈下〉 (文春文庫)

後半は淳仁天皇と譲位して上皇となった孝謙女帝との確執の激化から始まる。

黒岩氏は天皇と言えども神格化はせず、一人の感情のある人間として扱うのだが、正直なところ、私は黒岩氏の描く女性像はあまり好きではない。
なんというかそれは、男の目から見た女という生き物に対する目線であり、理想や女はこうあるべきといった思いが反映されてるような感じも受けるからだ。まあ、その方が可愛くもあるんですがね。
政治的な嗅覚や冷静な計算などはまったく出来ないただの我侭娘みたいではないですか(笑)

仲麻呂の台頭から没落までの過程には、感情も入っているかもしれないが、背景にはいろいろ政治的な思惑や他の重臣たちの意見などもあったのではないかと思えてしょうがない。

で、道鏡はと言えば、後半ではひたすら愛に生きる男になっている!

と、その一言で終わってしまってはあまりなので。。。
吉備真備と手を組んだ仲麻呂との攻防もかなりのページを割いており、なかなかおもしろい。
僧でありながらもやはり政治的な駆け引きを楽しんでいた部分もあったのかなあと。

道鏡が本格的に出世を始めるのは仲麻呂を倒してからなので、当時を考えればもうかなりの年齢だし、女帝も姥桜である。
「閨で政治を操作したエロ法師」という風評が立ったのも、それを踏まえるとちょっと異様な感じもするのだけれど。

ともかく人生最後の恋に燃え尽きようとする小説内の二人の姿は、一途でもあり痛々しくもある。

あとがきで黒岩氏自身が、「道鏡に関して信じるに足る文献は実に僅かなのだ。殆どがフィクションであることを認識していただきたい。(p435)」と述べてるように、ほぼ謎に包まれた人物像をここまで肉付けして、生き生きと表現したことはさすがであると思う。

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