恋の罪(澁澤龍彦訳)

海外小説

恋の罪 (河出文庫―マルキ・ド・サド選集)

え?これもサド文学?読んでみて意外な一面にびっくりした。翻訳者はおなじみ澁澤龍彦氏である。というか澁澤氏の翻訳だから興味を持ったと。別の翻訳者版もあるのだけど、個人的にサド=澁澤なわけで(笑)。

マルキ・ド・サドと言えばあの「サディズム」の語源となった人物である。
そもそも「悪徳の栄え」「美徳の不幸」などから入ってしまったためか、サド文学と言えば、残虐で、エロチシズムに溢れていて、頽廃と堕落を謳歌する作品のような偏見があった。

ストレートに読めばそのまんまとんでもない世界観で、おかげで牢獄に放り込まれるわ、ナポレオンに狂人扱いされるわ。。。ということになったのだろうが、人間の醜さをとことんまで暴露した、反面教師というか痛烈な社会批判なんだろうなと思って読んでました。

しかしこの著作を読んで、まず驚いたのが一節目の「ファクスランジュあるいは野心の罪」で、最後にわざわざそのような説明もどきがはいっていたこと。自分で言っちゃいましたか!と。

2節目の「二つの試練」などは、もう完全な幻想小説であり、澁澤龍彦氏自身の著作を読んでいるような気にさえなってきました。へぇ、こういうのも書けたのか。と。

この2編は「二兎を追うもの一途を得ず」「覆水盆に帰らず」という諺を具現したような教訓めいた童話のような雰囲気があります。

3節目の「ロドリグあるいは呪縛の塔」などは、もう「クリスマス・キャロル」のよう!
途中から「神曲」っぽくもなってくるんだけど、とにかく空想が次元を超えて大空高く羽ばたいて壮快でさえある。

小咄の「オーギュステイーヌ・ド・ヴィルブランシュあるいは恋の駆引」あたりからは、ちょっとサドっぽさが出て来てなんとなくほっと(?)したりもする(笑)
とはいえ、全体的にソフトな感じで、ユーモアも盛り込まれており(ちょっとブラックだけど)、さくさく軽く読める作品集だ。

とはいえ、やはり徹底的に神の存在を否定した無心論者の立場をとっており(特に最後の「末期の対話」)、堕落讃歌、宗教的には冒涜ととられるような表現も多々あるので、当時用注意人物としてマークされてたのも仕方ないんだろうな。

2010年6月30日

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