喜娘

歴史(日本)

喜娘 (新人物文庫)

本屋で「帰国が叶わなかった遣唐使、藤原清河の忘れ形見が日本へ」というような文句をみて、ふと興味を惹かれて手にとったもの。
これでひとつの長編かと思っていたのですが、表題の「喜娘」をはじめとして、「惜花夜宴」「夏の果て」「すたれ皇子」「嘉兵衛のいたずら」の4つの中短編がはいってました。どれも平城京、藤原氏全盛時代の出来事。

藤原氏時代は権謀術作の渦巻くどろどろした時代。権力を手中にするために誹謗中傷のでっちあげでライバルを蹴落とし、邪魔者は暗殺等で排除し、詔はいいように改変され、ないものをあると言う。力こそすべて!

文化は中国を模倣し、きらびやかで豪華絢爛さを競い権力の象徴とする反面、民は飢饉や圧政、蔓延する伝染病などにあえいでいた。

この物語では、そういう華やかな表舞台の影で、実務を支えていた下級官僚たちに主にスポットが当たっています。
激動の歴史に巻き込まれた人たち。表舞台に現れないところでも過去の事件はつきまとって暗い陰を落とす。
この時代を知るに、おもしろい観点から挑んだ作品だと思う。

「喜娘」では、717年の遣唐使の「阿倍仲麻呂」の傔人として入唐した「羽栗吉麻呂」(唐人の女性と結婚した。735年に吉備真備・玄昉とともに父子だけ無事帰国する)の息子たち。
733年の遣唐使で、副使として入唐した「大伴古麻呂」(754年に鑑真をつれて帰った。後に「橘奈良麻呂の乱」の首謀として獄死)の息子。
752年の遣唐使で大使を勤めた「藤原清河」(古麻呂と共に唐を出発したが、帰途難破して、同船の阿倍仲麻呂と共に日本に帰り着けなかった)の唐で生まれた娘。
という、遣唐使に関わる父をもつ人々の人生が思わぬ形で交錯する。

「惜花夜宴」では実在の人物かよくわからなかったが、非業の死を遂げた長屋王(天武天皇の皇子の高市皇子を父とする)の舎人であったという沼辺年足が、佐伯宿禰真依という人物に「長屋王の変」前後を語る。

「夏の果て」では、後世に貴重な文化財を残した写経生の「呉原生人」の目から見た、聖武帝放浪〜東大寺建立時代の動乱。

「すたれ皇子」では、万葉集にも歌を残す「石川広成」に焦点。文武天皇の皇子であったが、政権争いに巻き込まれて身分剥奪されたが、再び時代の波が襲う時。。。

「嘉兵衛のいたずら」は、毛色変わって現代。吉備真備の母であったという「楊貴氏の墓誌」に関する謎解きとなっている。

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