人間の証明

ミステリー

人間の証明 (角川文庫)

霧積温泉に泊まりに行くことになった時に、宿に向かう途中本屋に立ち寄り購入。
子供の頃に見た映画の宣伝では、暗くて何やら怖い印象と「母さん、僕のあの帽子。。。」という1節だけが印象に残っていたが内容はまったくわかっていなかった。

ニューヨークスラム街に住む貧しい有色人種の青年と、大都会東京。
有名人の両親を持つ放蕩息子と謎の家出娘。
妻を寝取られた男と奪った男。
ニューヨークの警官と東京の刑事。。。。

さまざまな対照的な組み合わせが多数からみあって、徐々に全貌をみせていく。

終戦時の、乾いて、無気力で、自分のことで精いっぱいなくせに好奇心だけはぎらぎらしている群衆の姿はどこか人間離れしていて恐怖を感じる。戦争は物質面や人の命だけではなく心も殺してしまうのだなと感じた。
が、その様子がまた、大都会のネオンに彩られ、成功者たちが闊歩する大都会のすぐ傍らに潜む闇、ハーレムと似ていることに驚く。
極度の飢餓と貧困はやはり人間らしさを奪ってしまうものなのか。。。

対照的に描かれる、金持ち一家の傲岸さ。家族一人一人が超身勝手なエゴには身震いするばかりだ。
地位と名声と金と俗人の欲しいものは全て手に入れた成功者。
確かにそれほどの大きな成功を治めるためには、さまざまなものを犠牲にして這い上がったものだけが勝者になれるとは言われるところだが、その犠牲にしたものが自分ではなく他人の人生であった場合、共感を得ることはまず厳しい。(あるいは同じ境遇の数少ない人か。。)

とはいえ、私が一番楽しみに読んだのは、217Pあたりからの霧積のくだりである。
まさに先ほど通って、見て来た風景が描き出されるのだから。
現在は、新館の霧積館が駐車場脇にないのを除けば、ほぼ当時と情景は変わっていないようだ。
宿も古いままで、昔のおばあちゃんの家のような座敷で、窓の脇には水車の木製の樋が長々と横たわっていた。
食事も派手なものではないが、心づくしの手作り感満載の山の幸であった。(当然宿泊料は違いますがw)
行きも目印として脇を通り過ぎたダムだが、帰りには周辺のくだりを読み終えていたため、降りて立ち寄った。
書かれた頃は、まだ工事中だったんだね。

すっきり解決!という感じではなく、なんともやるせない後味の悪い思いが残る本だが、西條八十の詩が、どこか甘酸っぱいような懐かしさを刺激する。

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