ガリヴァー旅行記(平井 正穂訳)

海外小説

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

ガリヴァーと言えば、小人の国や巨人の国へ迷い込む場面を思い浮かべる人が多いのではなかろうか。
わくわくどきどき空想あふれるファンタジーワールド!
。。。と、思いきや、それだけではなかった。

天空に浮かぶ島「ラピュータ」
永遠の命を持った「不死人間」
馬が支配する国と野蛮な家畜として扱われる人間「ヤプー」

なんとまあ、後世に多大な影響を与えている、不思議な世界のベースはガリヴァー旅行記にあった!

しかも、夢やあこがれのやわらかな世界観ではなく、原作はかなり厳しい社会批判が柱となっていたのだ。

どれもこれも、我々の一般的な人間世界というものの存在を知らない場所という設定で、自分たちの暮らす社会を彼らに説明する、この国と比較するという形だが、そこに示されるのは政治の腐敗や、貴族たちの堕落、貧しい人の浅ましさに渦巻く欺瞞と建前と裏。

人間という物がどれだけくだらないか、名誉や地位といったものがどれだけ意味の無いものか等をとうとうと述べている。

いやぁ、こりゃまったく児童向けの文学じゃないですね(^^;)

おもしろおかしく描かれるその国独自の風習も、実社会の出来事を皮肉ったものだったり、机上の理論にばかり捕らわれて、あたまでっかちになることの危険性を示してみたり、他人の為に尽力した結果が手痛い報復行為だったり。。。
なかなか怖い話ですよ。

多分作者が生きた時代を色濃く反映しているのだろうけど、そこに感じられるのは社会に対するニヒリズム。人間の醜さ。

特に最終章のヤプーなどは、まさに人間の持つ嫌な面を誇張して押し出した生き物になっており、往生要集、地獄絵図などにも通じるものがあるのではないか。

岩波文庫はどうも読みにくい印象があったが、これは訳がいいのか、読みやすくて非常におもしろかった。

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