昭和20年頃の安部公房氏の初期短編作品集。
正直文体は硬めで、観念的な表現が多用されていて極端な比喩が多く、爛熟期に比べると読みにくいところはある。
主体=不明、立場=不明、対象=不明、時や空間の感覚=不明
というように、登場人物が曖昧で薄ぼんやりとしてつかめないところなどはやはり安部公房だよなあと思ってしまう。
人間とは何か、性格とは、愛とは。。。そして名前とは?
そして全体を通して「死」のイメージもつきまとう。
安部公房の著書を好きな理由が最近よく分かった。
私にとって彼の作品は「絵本」なのだ。まさに絵のない絵本。。。。
現実的なリアルな描写というのとはまた違う、夢と現の狭間のような、地球上のどこでもないけど情景がはっきり浮かぶ不思議な世界。
正直かなり哲学的観念的思索的なので文字を追って理論的に理解しようとすると混乱に陥る(私の場合)。
でも、情景として追いかけると、次々に妄想の泡が湧き出てきて、包まれ揺蕩う心地よさのようなものがある。
個人的には「異端者の告発」と「夢の逃亡」が特に良かったかな。