安部公房らしい、非現実的ながら妙に身近なイメージがぎゅっとつまった一冊。
戯曲の台本形式のため、最初は読みにくさや違和感を感じるかもしれないけど、読み進めるうちにいつのまにか惹きこまれて自然な感じで読める。
一般的には、背景とか情景とかそうなった必然性などを細かく描写して目の前にイメージが広がっていくものだけど、安部氏の作品にはそういったものを逆に徹底的に簡略化して主題だけを浮かび上がらせるものも多い。
表題にもなってる「友達」と「棒になった男」などは、登場人物に名前さえないのだ(笑
それでもいつのまにか舞台の中に吸い寄せられて、まるですぐ目の前で起こっていることのように思えてくる。
読み手が勝手にイメージを膨らませて、描写されてない部分を補う効果もあるのかもしれない。
繰り広げられるのは、あまりにも理不尽で日常からほど遠い出来事なのだが、その異常性を当たり前の事のように受け入れてしまう不思議。
抽象的で言葉も簡素で断片的ながら、なにかこう心情的に響くものがあるのは、独特の才能だなぁと思う。
3つめの「榎本武揚」だけは、「個」を確定したちょっと違う毛色の作品。
幕末の混乱期の様子や立場、後世どのような印象を与えた人物かなどが伺えるので、一見歴史小説のようでもある。
んが!
実は一歩も居場所から動いてはいないんですよねえ。しかもすべて牢屋内での語りのみという異色さ。
ほとんどが歴史上の出来事と関係のないたわいのないやりとりに見えながら、時代の盲点をついてゆく見事さ。
どれもとってもおもしろくて、一気に読んでしまいました。