私は専門用語はよくわからないが、現在の社会が抱える医療問題を、一般人にも比較的理解し易いように小説という形で提示してくれた書籍と言う気がする。
現実に起こった事件などもモチーフにしているので、想像力も働き易く、すっとなじんでいける。
生きて行く上で、医療は非常に重要な課題だと思う。人の手によって救える命というものがある。
現在それでなくとも医療に携わる人手も減っており、地方では病院も次々に閉鎖されていく不安な時勢。
本当に必要な人が、動くことも厳しいような人が数時間かけて移動しないと診療さえしてもらえないという問題も発生している。
医者=それだけ稼いでいるのだから。と受け取られ易いが、へたしたら人の生死を自分の腕一本で左右してしまうとしたら、こんなに重い責任はないだろう。
日頃心にかかる負担も相応なものだと思う。少なくとも私にはできない。
それが金銭的な問題で人手を減らして、的確な判断ができないぐらいに多忙に、疲労も限度を超えるぐらいに超過させてしまったとしたら、誰の責任であろう?
本来やれば有益なはずの検査も、限られた費用の為に省いて、それで治療や問題の発見が手遅れになったら?
「沈まぬ太陽」を読んだ時にも愕然としたものだが、我々の見えない不透明な部分で、どのような話し合いがなされているのか。政治とは一体誰のためにあるのか。
もちろんフィクションであり、すべてがその通りというわけではないだろうが、一部現実が垣間見える気がする。
以前TVでも、福祉的なことで現状を改善しようとごく一般人が政治に関わったドキュメンタリーを見たが、やはり「既得権の問題」とか「前例がない」などという言葉、当事者のことを本当に考えてるとは思えない事務的な机上の話し合いなどに阻まれて、絶望していく有様が見て取れた。
結局人間は、自分がその立場になって苦しんでみないと、本腰入れて考えられないものなのか。。。
このストーリーでも現場や被害者側と、書類と会議、研究室で頭越しに決定する側との温度差がはっきりと汲み取れる。
「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」なんてセリフがブームのようにもなりましたが、この体質は多くのものに当てはまるわけで。
税金をつかって重ねられる検討会とか会議とかいうものの内容の無さと、なぁなぁでおざなりな雰囲気が、なんとも腹立たしくはがゆい。
法律も逆手に使えば犯罪者を擁護したり、国民に刃をむけるものにもなりかねない恐ろしさ。
小説の中では各分野のアウトローたちが活躍して、そうした現状にメスを入れてくれるのでスカッとするところはあるが、現実はどうであろう?
巻末に、真摯に受け止めて実際に動き出した人の話もあるのが救いだが。。。
「どうせ何も変わらないさ」とあきらめて目をそむける我々にも、問題を投げかける一冊。