子供の頃、おばあちゃん家に遊びに行った時にある日本人形をくれました。
白粉を塗りたくったような真っ白な顔に、てっぺんだけ結んだ長いおかっぱ風の黒髪、真っ黒でどこを見てるかわからぬ瞳。赤い唇。
着物みたいな服で鈴を抱え、餅つきの臼と杵のようなものがついてました。
(※同じ人形はないかと調べてみたところ、宮崎の名産品「ひえつき人形」であったようだ。記憶通りの画像はみつからなかったが。。。)
かわいらしい感じの方ではなく、妙にリアルで特に気に入った訳でもないが、貰ったのでとりあえず部屋の本棚の上に飾ってありました。
当時の部屋は兄と共同の子供部屋で、2階の階段をあがった正面が部屋の扉。
その扉すぐ脇が私の机で奥の窓側が兄。
本棚は私の机に向かって背後の角の壁際にあった。
基本的に背を向けてるので最初は気にならなかったんだけど、胸の辺りに鈴を抱えていたので、たまに「チリリ、、」と微かに響く。
国道に比較的近いこともあって、始めはトラックとか通る時の振動で鳴るのだろうと思ってたが、夜更かしして勉強してる時に、まったく車が通る気配もないのに鳴ることがしばしば増えてきたので何となく気になる。
一応確認で振り返ると音は止み、どこ見てるかわからぬ瞳が真っ直ぐこちらを見つめてる気がする。
気にしまいと思うと余計に気に触るもので、「チリリリ、、」(振り返る)止まる。ということを何度も繰り返しているうちにだんだん気色悪くなって鈴が鳴っても見ないようにした。
でもその分気のせいかもしれないが、日に日に視線が濃厚に絡みついてくる気配が強くなる。
そしてある晩夢を見た。(これは夢であるとハッキリ認識してる)
いつものように机に向かって勉強してると、背後で鈴が鳴る。
チラッと見て、また始まったかと以降無視することを決め込んだ。
すると「チリリリ、、」と言う鈴の音がだんだん近づいてくる。
まさか?!と思って振り返ると、本棚をおりた人形が静々と歩いてくる。
恐怖に駆られて「おかぁさーん!!」と叫ぶと「何よ」と母が上がって来るのだが、来た時にはまた本棚に戻っている。
もちろん話しても寝ぼけてんじゃないわ!と信じて貰えない。
母が行ってしまうと再び人形は床におりて歩いてくる。
「おかぁさーん!!」また呼ぶと不機嫌そうになった母があがってきて、また人形は元の位置にしれっと戻っている。
3-4回同じことを繰り返すとさすがに母も切れてきて「いい加減にしなさい!」と怒られた。
自分でも埒が明かないことに気づき始めていた。
そこで、次に人形が歩き出した時にはもう母を呼ばずにじっと見守っていた。
人形はそのまま近づいてきて、じっとこちらに首を向けて見つめながらゆっくりと戸口から出ていった。。。
夢を見た翌日、流石に我慢ならなくなって、隣にあった不透明なビニール製の覆いがついたハンガーラックの後ろの狭い壁の隙間に人形を隠して立たせた。
それから暫くは時々鈴の音は聞こえるものの、視線に悩まされることは無くなったのでほっとしていた。
なのでいつからその鈴の音が聞こえなくなったのかは気づかなかった。
日にちが経って、大掃除だったか家具の再配置だったかの時、そう言えばと思い出してラックの裏側を覗いて見た。
そこに人形はなかった。
とにかく家具類は全て動かしたし、ハンガーラックも一旦全部中身を取り出して動かしたが見当たらない。
母が掃除の時にでも見つけてどこかへやったのかと聞いてみたが、そんなとこいじってもいないし人形も見てないという。
もしやと思って近くの窓から落ちたかと下を覗いて見たが見当たらない。
そこは裏の物置への狭い通り道で、近くに紫蘇や茗荷も植えてたので割と行き来はしており、なにか落ちてたら私でなくとも家族の誰か気づいたはず。
念の為聞いてみたが誰もそこに人形が落ちているのは見たことないという。
どのようにして人形は消えたのか。
あまりにも私が気持ち悪がったので、まさか夢のように歩いて出ていってしまったのだろうか?
それからかなり長い間、いつかひょっこりと戻って来るのではないかという不安がつきまとって離れなかった。
未だにその夢と消えた時のショックが忘れられないのは、深いトラウマになってしまっているのだろう。