豚小屋

ArtisticHistorical
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ピエル・パオロ・パゾリーニ の生誕90年特別限定セットに入っていたひとつ。

荒野で美しい蝶を追う若者、、、、、、あれ?食べた!!!(O_O)
という衝撃的な場面から始まる。

中世風の世界で飢えて彷徨うこの若者と、現代っぽい出で立ちで綺麗で広大な屋敷に住む金持ちそうな若者の映像が交互に出てくるので、最初はどんな話だか掴めない。

金持ちの方はベルリン陥落前の西ドイツらしい。
急に服装が変わったり謎のセットになるのはきっと時間経過をあらわしているのだろう。

掛け合い問答のような、要領を得ない長いやりとりが続き、だだっ広いのに殺風景で統一感のない不自然な舞台セット、独特なカメラワークなど、やはりこの監督はちょっとおかしいので気になるのだ。
取り敢えずセリフは早口で無茶苦茶多く、常に2人で向き合った形。
役者さんたちの演技は決して上手いとは言いがたく、素人の舞台喜劇をみせられてるような、、、
そう、「カメラを止めるな!」の前半を見てるようなあの感じ(;^_^A

優雅にハープを弾くオヤジさんのちょび髭や髪型はまるでヒトラー。
実際にヒムラーなどの名も出るし、ユダヤ人とガス室の話など政治的な意図の暗喩が込められているように思うのだが、私が無知なせいか人種問題に絡めたジョーク?や人名、地名などピンと来ない所も多い。

従順ではなく、反抗的でもなく、誰も愛さず、他人に興味がなく、真面目で、ジョークばかりで、勉強熱心で、趣味もろくにない曖昧模糊とした雲を掴むようなブルジョワ青年は、全ての思考と判断を停止したように、、、

反して中世風の男の方は一切セリフがない。
銃の発射音、剣の打ち合う音、荒地を踏みしめる音、風の音、乱れる息遣いなどの環境音と引き気味の映像。
主人公の目がやたら澄んでキラキラしており、唇が紅くぽってりしてるのが印象的。
食べるものも見当たらない荒れ果てた地で、やがて始まるカニバリズム。
人間としての重大なタブーであるが、生きるために選んだ道。

やがて仲間ができて、略奪と殺戮を繰り返すうちにどんどん仲間が増えていくが、やがて裁きの時が訪れる。
捕縛に来た集団に対して、彼は何一つ抵抗の様子を見せず、着衣を全て脱ぎ捨てて立ち尽くす。
連れていかれる時も、踏み絵のごとき裁判?の時も、顔を上げて凛とした様子で立ち尽くす姿はまるで殉教者のように崇高に、なんの迷いもないように見える。

荒野の方は一切セリフがないと言ったが、実は最後に始めて口を開く。
同じ文言を繰り返し繰り返し。

私は父を殺し人の肉を喰らった。
そして——— 喜びに震えた。

劇中のセリフより

これはあきらかにキリスト教的なものが感じられますね。
聖餐を思い起こさせる内容。だからこそ彼はゆるがなかったのかもしれません。

題名の「豚小屋」は、最後まで見てるとかなり意味深であることがわかってくる。
あらゆるものを飲み込むドイツという国の当時の体制、ブルジョワ達の自分たちこそ豚という仄めかし。
親達の華々しい権力財力争いの裏で、それを嘲笑うかのように秘められた息子の嗜好。
豚どもに蹂躙され全てを飲み込まれて消えていく運命。

豚ってかなり貪欲な雑食で、どんな悪食でもするという象徴だからね。大人しく草食で飼われて人間に食べられている豚さんたちに感謝。(とはいえ結構綺麗好きで好き嫌いのうるさいグルメだということも。)

若者ふたりの行動や逆転した姿が見事にピッタリと重なる。
全く違う立場、時代だけどああ、同じなんだなと。
映像化されない最後の様子が荒野でのカニバリズムの映像とリンクするんだよな。
時代に翻弄されたけれど、どちらも最後は自分の運命は自分で決めて受け入れたんだね。

ソドムの市を見た後だと、反社会的ではあるけれど、非常に大人しい、映像的にも控えた映画だと感じる。
荒野の方では多少バラバラになった人間の形はあるけれど、頭は噴火口の方に投げ込むし(これは何か意味があったのかな?)、腕とか脚の一部がうつるぐらい。

ブルジョア息子の方は何を行ってきて、最後にどうなったかは明かされるが、全ては言葉の上での説明だけで、エロ、グロともに一切映像的な描写はない。

でも、簡単に理解したとも言えないが、比較的何となく表現したかったことがうかがえる作品だと思う。
個人的にはソドムよりもわかりやすいし映像的にもこっちの方が好きです。
荒野の方は映像的にも美しかった。
ただ、誰もが手放しで楽しめる映画かといえばそうではない。

社会的、宗教的な暗喩が多いシニカル、ニヒリスティックな映画をみたい方はどうぞ。

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