魔王

国内小説

魔王 (講談社文庫)

かなり前に知人のすすめで購入して読んだのですが、再度読み直してみました。
一体「魔王」とは何で、誰が魔王なのか?

途中で黒幕なども見えてくるのですが、果たしてそれが魔王と言えるのか、最終的に浮き彫りになってくるある人物の性質は魔王と言えるのか?

ここで言う「魔王」とはそもそも悪であるのか?結局よくわからない謎の部分は多い。

『ハクション大魔王』などは愛すべきキャラですが(笑)真っ先に浮かんでくるのは、やはりシューベルトの歌曲ですね。

昔音楽の授業で聴かされて、原曲はドイツ語ですが、日本語で歌われたものも聞きました。おかげでストーリーがよくわかりました。

「坊や なぜ 顔かくすか」ではじまり、「。。。息 絶えぬ」で終わる。
内容もとても怖いのですが、楽曲自体がこう嵐の中で何かにつかみかかられるような恐怖感がありました。

ちょっとした超能力を持った兄弟が、日本を変える為に立ち向かう話。。。などと言ってしまうと陳腐なSFものみたいなんですが、政治に興味を持たなくなった若者たち、選挙の時には威勢のいいことをいっても結局は保身や既得権の利害などで何も帰られない政治家たちなど内容は結構重い。

何よりも怖いのは「集団心理」というやつですね。

それが本当に良いのか悪いのか、自分の判断基準に照らし合わす前に勢いや雰囲気に飲まれて行動をおこしてしまう。しかも動いている時には疑いを抱かない。

命令だから。。。みんなもやってるから。。。「そうするのが当然であり、間違ってなどいないはずだ!!」

結局「いじめ」や「戦争」にもこうした作用が働いている。

こういう大きな渦に全体が巻き込まれている時に、疑いを抱いて妙に冷静になってる人間がいると、その人がおかしいように見られたりするんですよね。

あまのじゃくな人間であるため、経験あります(笑)。そんな中でいくら個人個人に、己の判断を促しても流れをそう止められるもんじゃない。
でも、たったひとりでも行動を起こしてみる意味はある。。。と思う。

ここに一人のアウトロー的な政治家が登場する。言っていることは正しいと思うし、まさに民衆が待ち望んでいた声だ。しかも行動もちゃんと伴う。

でも何故かこの人物が描写された時にとっさに浮かんで来た言葉が「デマゴーグ」だった。

古代ギリシアで煽動的民衆指導者を指して言われた言葉ですが、哲学者などに対しても使われてましたね。
現代も「デマ」という言葉になって残ってますが、ただの「嘘」のようになっててちょっと意味合いが変わってしまった気もしますが。。。

どのみちいい意味合いのものではありません。
ものすごく正論だと思うし、乗ってみたいけど危険な臭いもする。大衆を一気に動かして「集団心理」に持ち込む危険性があるからかもしれませんね。

この本は「魔王」という思慮深い兄がこの流れの中で孤立奮闘で逆らおうとあがく話と、一見楽天的なまったく正反対の性格をもつ弟が、表面には現れないところで変化して行く話の「呼吸」という2部構成で成っています。

あまり頭がよさそうに見えないけれども天真爛漫で純粋な弟の彼女やひっそりと影のような謎のマスター、信じたものへはまっすぐな友人や不信感を抱きながらも行動を起こせない同僚等、周囲にも魅力のあるキャラクターが溢れています。

何が善で何が悪かと明示しているわけではない。後味がいいのか悪いのかもよくわからない。それこそ自分の基準に照らし合わせて考えて見ろといったところでしょうか。

そうそう、この話に続く展開で「モダンタイムス」というのもすでに発売されてるんですよね。それも読まなくちゃ。

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