終りし道の標べに

国内小説

終りし道の標べに (新潮文庫 あ 4-11)

事実的な安部公房の幻と言われた処女作品であるが、読み易いように旧漢字かなを現代表現に改訂したもの。

まだ文章的にも非常に固さを感じ、内容的にも哲学思想的で読み易いとは言えないのだが、原点を感じて深い内容です。

「何故に人間はかく存らねばならぬのか?」
一見唯心論や唯物論的な人間存在の証明がテーマかと思い違いをしてしまいそうだが
「人間がかくあるのは何故か?」ではない「かく”存らねばならぬ”のか?」というところが大きなポイントだと思われる。

安倍氏の作品の登場人物は主人公の顔が明確でないところがある。
周囲の人物などは結構細かく描写されてたり、イメージをつかむことができるのだが、肝心の主人公の輪郭がぼやけてかげろうのようにつかみどころがないのだ。

どのような生き方をしてきたのか、何故今ここにいるのか、一体どんな人物なのか、この著作でも最初全然わからない。

この主人公が書き留めた「一冊のノート」に書き付けた散文的な言葉によって、だんだんと見えて来るところはあるのだが、やはり彼が何を求めているのかが非常にわかりにくい。

人間にとって「故郷とは何か?」ということも全文を通しての大きな課題となっている。
懐かしく、いつどこにいても心の支えとなり、そこへ帰ることを夢見ながら自分を励まし。。。というのと、この主人公にとっての思いとはかなりかけ離れている。

彼にとっては自分を引きずり込んで放そうとしない大きな罠のようなものであり、逃れようと必死にもがく悪夢であり、追放されるのではなく自分から突き放して決別をしなければならないやっかいなものであり。。。

「人間がかくある」ことと「故郷」との複雑な絡み。そこにあるのはただの空間的な「場所」ではなく、「属する」という観念や、その場所と結びつく人々との思いや過去や未来の時間など。

多分このレビューの内容自体よくわからないと思うが、最後まで読んで「理解した!」と自分でも言い切れないのである。

しかし、他人からは決して理解されることもないであろう苦悩にあがきつつ、ひとり静かに地獄を手探りですすむような姿には、何かを感じずにはいられないだろう。重い作品です。

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