昭和元禄落語心中

漫画

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

昭和の落語の世界に生きる人々を描いた渋い漫画。

歌舞伎、能などと共に、脈々と受け継がれて入るものの大衆文化としては勢いが衰え始めているのは事実。
元々庶民の娯楽だったはずが、なんとなく敷居の高い高尚な趣味のようになってきてると感じられる。

落語に関しては「笑点」がまだ視聴率を保っているが、いつでも気軽に覗きに行けるものから、数少ない特定の場所にわざわざ足を運ばなければいけない、それなりに料金も高そうだし、なにか基本のようなものを勉強してからじゃないと楽しめないんじゃないかという不安もあるだろう。

それにネットやテレビなども普及して娯楽の幅が広がりすぎたことも足を引っ張ってるだろう。やりたい見たいものがありすぎるのだ。
でも、こうした日本の文化はやはり途絶させたくないし、機会があればぜひ見てみたいのだ。

日本の伝統文化に触れる機会が日常であまりない世代に、この漫画はなかなか良いアプローチになるのではないかと思う。

落語はテレビやラジオなどでも聞けるし、舞台で演じる歌舞伎などと違って直接見なくても、と言う意見もあるだろう。

んが、やはり生で見た空気感はかなり変わるンじゃないかなぁ。
まず噺家の存在感。かたり口調の強弱や間。実際走り回るわけではなくとも、ちょっとした動きで想像力を掻き立てる扇や上半身の動きなど。
蕎麦を食べる真似など有名ですよね。

この漫画に出てくるのは孤高を愛し、いつも生真面目で冷徹に見える大名人。
そこに転がり込んできた、やんちゃだが憎めぬ真っ直ぐな素直さを持つおバカっぽい若者。
不幸な事故で両親を失って意固地になってしまった女性。

今を生きる彼らと名人の背負ってきた過去が交差して、なんとも味わい深くほろりとした人情が溢れ出てくる。
長く生きてりゃ思わぬこともいろいろ起こり、背負うものも増えていく。
でもやはり一人で生きてはいかれない。

本人の寂しさや弱さというものを閉じ込めたとしても、周囲に人がいる限り関わらずに生きていくことなど不可能だ。
本当に一人になりたいのなら、誰もいない無人島や山奥にでも行くしかない。

とはいえ、望んだ形でなかったにせよ、人によって救われることも多々あるはずだ。
ウザくなったり、嫉妬したりもあれど、人との関わりあいの中から生まれる何かに癒される。落ち着いた雰囲気でも先が見たくなってしまう素敵なお話でした。

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