カーミラ

海外小説

カーミラ

吸血鬼や魔女の伝承というのは不思議なもので、一国にとどまらずヨーロッパの広い地域で語り伝えられているよね。
まあ日本と違って地続きで隣り合わせだったり民族移動が古代からあったせいもあるのだろうけど。

「吸血鬼」といえばまず思い浮かぶのは「ドラキュラ伯爵」であるが女性なら「カーミラ」
名前はなんとなく知っていたがあくまで知識としての名前だけで、どういう逸話があるのかはイメージだけでわからなかった。
(サド・マゾも両作者の作品読むまで理解していなかったように)
でもなんか美しい女吸血鬼として映像で見たような気もするので、もしかしたらかなり昔に「血とバラ」あたり見たのかもしれない。。。

古典ホラーとして有名な作品。
吸血鬼というと、ホラーでモンスターのようなイメージになりがちだが、遠山直樹さんの訳がよかったのかもしれないが、全然そういう感じにはならず、むしろなんとも品のある優雅な雰囲気に感じられた。

被害者の少女の回想録がベースになってるのだが、一種のミステリとして見るならば、あまりにも怪しい手がかりがあちこちに散りばめられており、主人公があまりにも世間知らずでさまざまなことに疎い天然なの?というもどかしいところはある。
裏を返せばそれだけ素直に育っており、疑うということを知らないのびのびした娘とも言えるのだが。

将軍からの意味深な手紙。偶然にしてはできすぎた事故。身元も教えず初めて会った人に娘を預けて長期連絡もない親。その時期から急増する周囲の若い娘たちの不可解な死。謎の娘にほくろまでそっくりな昔の肖像画。
もうこれだけでも疑惑と妄想が膨らみそうだが、娘の言動と行動はさらに怪しい。
なんというか見てる読者の方が「ほら、危ないよ早く気づいてよ」と登場人物にはらはらするのであるw

しかしながら当の吸血鬼はおどろおどろしさはなく、普段はむしろやや病弱だがおしゃべりで快活な美しい娘であり、標的の娘に関しては官能的でさえある。
全てを自分と一体化させたい、同化したいという強烈なまでの愛の告白である。
加えて、情景描写が非常に丁寧で見たことのない地が目の前に広がるようである。

そんな長い話でもないので1日でさくっと読み切ってしまえるのであるが、軽いわけではなく、むしろ非常に丁寧に時間をかけて書き上げたのではないかとうかがわせる落ち着きがある。
秋の夜長にこういう古典を読み進めていくのも良いなと思いました。

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