きみの声をとどけたい

国内小説

(102-1)きみの声をとどけたい (ポプラポケット文庫)

思春期の女子高生の戸惑いや悩みや苦しみ、友情と人との関わり方などを描いた「言霊」を中心とした人間模様。

2017年にアニメで映画化されたのだが、その脚本家が書き下ろしたノベライズ。

きみの声をとどけたい 限定版 [Blu-ray]

話は高校生なのでもちろんジャストエイジが読んでも良いのだろうが、児童書主力のポプラ社からの発行ということもあってか、小中学生くらいに是非読んで貰いたいということだったので、ちょうど夏休みだし姪っ子にでもプレゼントしようと購入した。

のだが、せっかくなので先にちょっと読ませてもらった(笑)
大人になってからの経験ってだいたい忘れてるくせに、小学校から高校時代の出来事やその時に感じた気持ちの方がしっかり覚えてたりする。
それだけ多感で記憶に残る新鮮な感情の揺れとかあるんだよね。

神奈川県の海辺にあるという設定の仮想の街「日ノ坂町」を舞台とするが、ぶっちゃけ江の島~鎌倉付近の湘南地区がモデルになっていることは、湘南っ子なら気付くだろう。
ああこれは腰越付近だな、とかこのあたりは極楽寺坂付近かなとか、まさに青春時代をこの付近に通い詰めて歩き回ってた私にとっては情景がありありと浮かんでにんまりしてしまう。人名も江ノ電にゆかりのあるものが多い。

この物語では、おばあちゃんっ子で祖母から「コトダマって、あるんだよ」「本気のコトバは、本気のネガイは、いつか現実になるんだよ。」と言い聞かされて育ち、実際にコトダマが形となって見えるという能力の持ち主「行合 なぎさ」が中心となる。

コトダマ=言霊とは、古代からの日本の信仰で、言葉に宿ると信じられた霊的な力を表す。
「言代主神(事代主神)」「一言主大神」など神格化されたものもあり、だからこそ髪に捧げる祈りは祝詞でめでたい言葉を並べて「ことほぐ」。
逆に呪術で政敵を呪い殺すという歴史も多々あるように、実際は日本だけではなく言葉の持つ魔力のようなものを信じてきた国は多い。

人は妬みや自分と意見の合わない人やライバルに対して悪い感情を持ってしまうところがあり、つい相手を貶めたりするような悪口を言ってしまうことがある。
呪いほどではないにせよ、それも意思を持った感情のこもる言葉であり、そこにも言霊は宿っているんだよと。

もちろん言葉にして出せば何でも思い通りになるという万能なものではなく、どんなに強く祈っても叶わないこともある。
でも、口に出すことで強い意志が生まれて自分を引っ張る原動力となり、結果を出している人がいることも否めない。スポーツ選手などでも見られるよね。

なぎさの幼馴染として、まったく性格の違うけど仲良しの二人「かえでと雫」、同じく幼馴染だけど違う高校へ行き、生活環境の違いやライバル校の関係などから疎遠になってぎくしゃくしてる「夕」が微妙な関係を描く。

ある日(言霊のせいか)学校帰りに土砂降りにあったなぎさは、たまたま雨宿りした営業していない喫茶店のカギが開いていたため中に入ってみた。
そこにはラジオの放送機材やレコードが置いてあるミニFM「アクアマリン」のブースであった。

これがきっかけでこの喫茶店の娘「紫音」と出会い、元ここのDJだったが事故で12年昏睡状態となっている紫音の母に声を届けようと放送を再開する。
そこへおたく系女子のあやめ、音楽の才能の高い乙葉も加わり、それぞれの得意分野と個性を生かして徐々に盛り上がりをみせていくのだが。。。

今では少なくなった、地元社会の密接な繋がりと協力体制などもふんわりとやさしく懐かしい。

とても直球な青春ストーリーなので最初はちょっと甘酸っぱさが気恥ずかしく思えましたが、読み進めていくうちにそれぞれの思いが交差してだんだんひき込まれていきます。
ぶつかりあいながら成長していく、青春っていいなあ。

ただ思っていたより「コトダマ」が深いテーマになってるわけではなかったかな。(↤自分がそう思い込んでただけだが)

でもさわやかで後味の悪さのない、年代問わず気持ちよく読める清々しい話でした。

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