天智と天武-新説・日本書紀-

歴史(日本)漫画

天智と天武 ―新説・日本書紀―(1) (ビッグコミックス)

この時代を描いた代表作としては、里中満智子さんによる『天上の虹』があった。
小説では黒岩重吾さんが様々な立場から何作も描いている。

それにしても他の時代に比べると、文学作品になっている割合は非常に少ない。
その大きな原因の一つとなっているのが、信頼できる資料が著しく乏しいという点にあるだろう。

なぜならば、そもそも歴史というものが「作られ始めた」のが、まさにこの時期にあたるから。

誰でも文字の読み書きができたわけではなく、ブログやつぶやきを形にして残せるはずもなく、権力者に対して不利な記述をしたものなど見つかれば反逆者とみなされたであろう。

わざわざ「古事記」や「日本書紀」などという日本神話や系譜を文章にし、国家の大事業としてまとめあげたのは朝廷であり、その必要性を裏から見れば、血筋や過去起きた事件の「正当性」を主張して納得させるためであろう。

じゃあ誰の正当性といえば、言わずもがな当時の権力者だろうということは推測できることで、権力争いのどさくさで陥れた陰謀などは絶対に表ざたにしてはならない、それだけの理由があると言い張らねばならない。

つまり正当=当時の権力者であり、悪=対立した者、敗者という系図がおのずから見えてくる。
当然そこから遡る先祖の行いも道理に沿ったものでなくてはならないとなる。

何が言いたいかと言えば、唯一残されている記録が歴史的に絶対正しいと言い切れないということなのである。

飛鳥、奈良、藤原時代などはまさに政治の中枢で骨肉食む権力争いが続いた時代のようだ。
もちろんすべてが嘘で塗り固められているともいえない。

その時代の世相や、民間信仰や、政治の在り方などから半ば憶測で拾い上げていくしかないところが多いので、この限られた情報から何をどう受け止めるかで大きく変わってしまうところがあるといえよう。

「新説・日本書紀」とあるように、このストーリーは今までの通説的なものからは大きく逸脱している部分もある。
突飛にしか見えない発想に驚くこともあるだろう。

しかし、実際にどうであったか証明できる資料がないので、今まで思い描いていたものの方が正しいとも言えないのである。
読んだ人がどれだけ納得できるかというところに作者の力量がうかがえるというもんだろう。

ちょっと山岸凉子さんの聖徳太子をベースとした「日出処の天子」に近い雰囲気も加わってるのだが、近親相姦や同性愛もさほど抵抗感がなかった時代というのもあり、愛の形もいろいろあるかもよ。。。と。

個人的には有間皇子の扱いにはちょっと不満かな(笑)
あれだけ情感豊かな素晴らしい歌を残していて教養も感じられる人物。
力づくでも若いうちに排除しておかないと危機感を感じさせるだけの器量を持っていた人物となると、やはりそれなりに魅力があったと思いたい!
気位はあるが、なんだか考えの足りない浅はかさの見える若造のように感じてしまった。。。

額田王や鸕野讃良皇女(のちの持統天皇)、大友皇子像もやや独特かな。

いやいや、それ以前に中大兄皇子(天智天皇)が結構な暴君のように受け止められる。
だいたい大海人皇子(天武天皇)の方が仁徳と才能のある素晴らしい人物として描かれるのはどうなんだろ。
もちろん記されていない所でも民の声など語り伝えられたものもあるかもしれない。
しかし、それだけの群臣がついてきて強力な政策を実行してきた天智天皇にも魅力や才能はあっただろう。
判官びいきの源頼朝と義経の関係をも彷彿とさせる。

井沢元彦さんの「逆説の日本史」なども参考にしてるようだし、夢殿の救世観音像の謎などもおもしろい。
きっといろいろな疑問がまた新しい歴史を生み出していくのだろうな。

タイトルとURLをコピーしました